ふたばで子育てする人のリアルボイス #006│楢葉町Aさん・Eさん夫妻
今回は、楢葉町在住のご夫妻にインタビューしました。町出身のパパAさんと、県外から就職をきっかけに移住してきたママEさん。仕事を通して出会い、結婚したふたりの楢葉生活は、子どもが生まれてどう変化したのか、ぜひご覧ください。
― 第一子のTちゃんが2020年12月に誕生しましたね。子どもが生まれる前後で日常生活は変わりましたか?
Eさん(妻):買い物は、コロナもあるし、生まれてからは宅配を活用しています。アマゾンで日用品、オイシックスと生協で野菜や生鮮食品。アプリでポチポチと選んで、品ぞろえにも値段的にも特に困らない。地元のスーパーでは、新鮮なお魚やお肉を購入します。
想定外は夫! 授乳のほかは何でも任せられます。彼はもともと家事が得意じゃないし、自分の趣味の時間を大事にするタイプ。子どもに時間を取られることにストレスを感じるかと思ったら、こんなに楽しんで子育てするなんて。
Aさん(夫):おむつ替えたいもん。趣味の時間は減ったかもしれないけど、娘のために使う時間も自分の時間だと思っています。自分自身、昔から音楽が趣味で「音楽の英才教育だ〜」って言って、毎日アルバムを一枚一緒に聴いてました。離乳食が始まってからは、朝は娘用の米を1合、鍋で炊いてから出勤してます。
Eさん:「娘が何かに集中しているときは邪魔しない」とか、我が家ルールもでき始めています。娘にはなんでもやらせたいです。よく工作しておもちゃをつくるのですが、娘にはペンを持たせることもあります。ペンを口にくわえてもいい。服なんて汚れてなんぼです。
娘だけじゃなく親も挑戦。「子どもがいるからここは行けない、これはできない……」じゃなくて、親もやりたいことをやるために、いろいろチャレンジしたいです! 「やりたいことか子どもか」って二択じゃないはずですよね。
―これは大変だったと思うことは?
Aさん、Eさん:生まれてから1ヶ月……。
Eさん:あれ、地獄じゃない人いるのかな……。授乳の間隔も短い上に、モロー反射(※1)で15分おきとかに起きちゃって、寝た気がしませんでした。冬で日が短くて、寝ても覚めても真っ暗で寒いし。体はボロボロで、気持ちもすごく沈みました。
当時は、いわき市の夫の実家にお世話になっていました。家事は全て義父母にお願いしていたから、「子どものことまでは甘えられない」と思っちゃって。毎日、夫の帰宅がものすごく待ち遠しくて、帰ってきたらすぐ「お願い!」って子どもを任せてました。
Aさん:「夜泣き 対策」で検索しまくって、モロー反射を抑えるパジャマを見つけたんです。それを導入した途端に寝てくれるようになって、あれがでかかったですね。
―共働きのふたり。お仕事はどうしていますか?
Eさん:育休を取りましたが、「一刻も早く仕事をしたい」という私の希望で、今は半育休中。勤務先で私が初めての育休取得者なのですが、手厚く柔軟に考えてくれます。
妊娠判明は2020年4月。コロナの感染拡大の時期と重なって、「私しかこの子を守れない。恐れ過ぎて悪いことはない!」って、かなりコロナに敏感になったんです。胎動を感じ始めた7月末、「リモートで仕事をしたい」と申し出た時、上司は二つ返事で同意してくれました。「仕事は代わりにやれるけど、母親は代わりにやってあげられないから」って。その言葉は今も支えになっています。妊娠中から支えてくれた職場の方々に早く仕事で返したくて、育休前から「早く戻りたい」って考えていました(笑)。
今、仕事に出るときは、娘は夫か、夫が休めない時はこども園に預けています。育休を終えたら、こども園に預ける予定です。地域の子育てで不安があるとしたら、預け先についてかな。
Aさん:町に子どもが増えてきてるから、「先生は足りているかな」とか考えるよね。かといって、ほかに預け先があるわけでもなく。選択肢がないのは、園だけじゃなく学校もそうですね。
―双葉郡だからというより、地方ではどうしても小中学校を「選ぶ」とはなりにくいですよね。
Eさん:町の保育や教育の環境が悪いというのではなく、選択肢がないことを不安に思うことがあります。都市部にいたら、教育方針に合わせて子どもの預け先も選ぶことができるのかなあ、と思ったり。今後、日中のほとんどの時間は娘を園や学校に任せることになるので、親である私たちが教育方針をしっかり話し合って、家での過ごし方を決めないといけないなって、夫と話しています。
―「仕事したい!」と言いつつ、Eさんは育休の生活も楽しんでいるようにみえます。
Eさん:毎日、娘を連れて散歩しています。散歩は娘の広報活動。今後、成長とともに周辺で遊んだりして、地域の方に迷惑をかけることもあると思います。娘の存在を知ってもらって、かわいがってもらえればうれしいし、何かあれば声をかけてほしい。だから、あえて田んぼより、人目につく家の間の路地をガシガシ歩いてます。
Aさん:「ベビーカー押してると無敵」って言ってるもんね。
Eさん:私、人見知りなんですけど、娘がいたら話題に困らないから何も怖くない! 「お茶飲んでいきな」って声かけられて、「ええー、いいんですかー?」なんて、ちゃっかり休憩して帰ってます。
―娘さんが生まれた後、Aさんが生まれ育った地区に引っ越したんですよね?
Eさん:はい。この周辺で私は「〇さんちの嫁」、娘は「Aくんの子」。仕事の肩書なんて関係なくて、就職を機に移住した私には、それが新鮮で心強いんです。うちは転勤族だったから私には「ふるさと」の感覚もなくて、その憧れもすごいあった。今、地域の関わりの中で支えあいながら生きていく感じが、なかなかにうれしくて、楽しいです。
Aさん:育った地区には戻りましたが、自分の家は津波で流されて、そこで暮らすことはもうないんです。だからこそ、震災があったこと、そして、その後ゼロになった町でなくなったものが新しく復活するときの感動を、忘れたくないし忘れられてたまるかっていう感覚があります。
来年は地区の夏祭りが再開予定です。正直、これからもずっと楢葉で暮らすと決めているわけじゃありません。でも、せっかく生まれ育った地域にいるんだから、俺が知っていることは娘に伝えていきたいと思っています。
(※1)モロー反射……赤ちゃんが光や音、体勢の変化などの刺激に反応し、ビクッとして両手を広げる原始反射の一つ。
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取材・文:喜浦遊
イラスト:KUMA DESIGN WORKS