ふたばで子育てする人のリアルボイス#011│大熊町在住Yさん
2023年春、東京都から大熊町へ移住されたYさんとそのご長男(中学生)。移住を決断するまでの経緯や現在の暮らしぶりを赤裸々に語っていただきました。Yさんの子育てのお話はもちろん、学校教育や子育て支援への思いはとても興味深いものでした。こちらにも注目してご覧ください。
―中学生になる息子さんと大熊町へ移住されたとのことで、興味しかないです(笑)。学校選びをされたきっかけを教えてください。
Yさん:大熊町に移住する前、私たちは東京都に住んでいました。息子が幼稚園にあがる前から、ちょっとおもしろすぎる子だなとは思っていました。どちらかというと自由な感じの子なので、ぎゅうぎゅうな感じの教育よりは、自由な学校がいいかなというのはありました。
都内の自宅近くに、定期テストがなかったりチャイムがなかったりなど、自由な感じの公立中学校があるんです。先進的な教育をされる校長先生で、中学校はそこに行かせようかなって。でも公立中学校なので、先生は入れ替わるし、近隣はもちろん学区外からも入学を希望する子がいっぱいいて、パンパンな状態でした。そんな状況の中、この学校に進学させてうちの子は馴染めるかな?とちょっと心配でためらっていたんです。
じゃあ、どこが息子に合ってるかなと探し始めました。
私自身、都内で子育て支援の活動をしていたんですね。その活動のなかで、2,3年前に福島県飯舘村へ学習支援に行かれていた数学の先生に出会いました。その先生との会話の中で、たまたまネットニュースで見た大熊町の「学び舎ゆめの森」のことをお話ししたら、「福島は今子どもが減っちゃってるから、子どもをすごく大切にしてくれる。学校の概要をちょっと見たけど、良さそうな学校ですね。」とおしゃって。その言葉を聞いて、行くっていう選択肢もあるのかなと本気で考え始めました。それが2022年の8月31日です。
―ご家族や周りの反応はいかがでしたか?
Yさん:夫は、自身も東京と二拠点で活動しているのもあり「別の地域に行くのもありなんじゃない?学校がよさそうだったらいいんじゃない?」とノリノリで(笑)。
私は東京都から出たことがなかったし、ママ友も東京の人ばかりだし、子育て支援の活動や仕事もあったので不安でした。けれど、夫の「行けば大丈夫だよ」のひと言で来た感じです(笑)。今は私が自立したと言って喜んでいます(笑)。
周りのママ友などは、誰も止めてくれなかった(笑)。みんなおもしろがっちゃって。息子にぴったりじゃんと言って、好きなことを大々的に応援してくれる人たちでとても心強かったです。
―息子さんの性格や特性に合った学校選びをされる姿がステキですね。
Yさん:子育て支援の活動をしていたとき、不登校の子どもたちと接する機会が多くありました。そこでは自分で深く考えすぎるから、学校には行かないほうがいいというお子さんもいることを知りました。けど、うちの子は学校に行ったほうが良さそうだなと思ったんです。
その子の将来にどうつながっていくのかを見極めなくてはならないのが、中学校選びの難しいところですよね。
その点では、不登校の子どもたちと過ごしてきて、いろいろなパターンを見てきました。もう中学校に行きたくないって自分で選択してても、高校から行きたいっていう子が多くて。勉強してなくてもチャレンジスクール(※1)という公立高校もあるし、通信制もある。それに本人が自主的に学びたくなって、自分のやりやすい勉強の仕方をした方が伸びる傾向もあります。そういう事例をいっぱい見て知っていたので、うちは遊ばせるつもりでここに来ています(笑)。
―1学期もそろそろ終わりますが、息子さんのご様子はいかがですか?
Yさん:今のところ行きたくないとはならず、学校行ったらはしゃいで過ごして、家に帰ってきたら今までどおりYouTubeで鉄道関連の動画を見て過ごしています。私の感覚からは考えられないんですけど、周りの景色がちょっと変わったなくらいの感覚のようです(笑)。
最初、テストが嫌だなと言っていました。けど先生と相談して、テストしなくても普段の授業で実力がわかるからしなくてもいいかとなり、気が楽になったようです。まだ学年にひとりしかいないので、そんな柔軟な対応もできるようです。
―今、大熊町で働かれているとのことですが、お仕事探しはいつ頃から始めましたか?
Yさん:大熊町に行ってから探そうかとも思ったんですが、職がないまま引っ越すのも不安だったので東京にいるときから始めました。
学校の下見のために大熊町に行く前、おおくままちづくり公社(※2)へ問い合わせをしたんです。そこでつながった公社の人から、求人情報があるところは教えてもらっていました。
東京にいる時にしていたような仕事も探したのですが、結局全く違うあまり経験のない職種で雇っていただきました。
―やりたいこととギャップがあり大変ではないですか?
Yさん:周りの方がとてもいい方ばかりなので助かっています。でも、子育てや福祉関係に興味があるので。夜ご飯を地域の人たちや子どもたちと食べながら交流するような活動があれば参加したいと思っています。
子育てしていて、孤立するのがよくないと思っているんです。「どんな子もそのままでいいんだよ」と言ってくれる人がそばにいて、わたしは孤独にならずにすみました。そういう環境って大切だなと。
たとえば、理解してくれる仲間がいて、支え合って暮らせてるんだったら全然いいんだけど、なかなか大変だったりするんですよね。そこを乗り越えた人をいっぱい知っているので、「大丈夫だよ」っていうことは言えるかな。なにかできたらいいなと思っています。
―大熊町での暮らしはいかがですか。
Yさん:車がないので、循環バスを利用して富岡町の『さくらモール』やコープ宅配で買い物しています。
今まで身分証明書としてしか免許証は使っていませんでした(笑)。車がないと生活できないってこういうことなんだなと実感しています。
もうすぐ車もなんとかしようと思っています。運転のしかたはYouTubeを見て記憶を呼び起こしています(笑)。
医療は大変だろうなと、来る前から想像していました。いい医師や病院は、口コミから知ることが多いので、そういう情報は重要ですよね。まだこちらに来てから病院にかかっていないのでわからないことが多いですが、大変だろうなと覚悟しています。
―地域の人と関わりはありますか?
Yさん:SNSで「キウイ再生クラブ(※3)」という活動を知りました。こちらへ来てすぐに参加しました。Iターンの方が多く、震災前から大熊町にいた人は今はまだ少ないようです。
畑仕事もしてみたくて、大熊町の若い女性たちに混ぜてもらって畑に行かせてもらってます。
その他にも町内のイベントや集まりなどにはできるだけ参加するようにしています。
インタビュアーより
お子さんの中学校選びから、双葉郡へと移住されたYさん。
人間関係や生活環境などさまざまなことに大きな変化が生じるなか、前向きな言葉と姿勢にとても驚きました。大熊町で生活するうえで、「ここが足りない」と嘆くだけでなく、「こうしたらよくなるかもしれないね」と具体的な改善策をYさん自身が考えていることに、ここで暮らしていく覚悟を見た気がします。
また、Yさんの明るい人柄とあわせて、楽しいことへの高い関心を持っている姿は、新天地での素敵な新しい出会いを呼んでいる要因のひとつではないかと感じました。
これからのYさんとお子さんを応援したくなる、そんなインタビュー取材となりました。
取材日:2023年8月
取材・文:ナッツ
イラスト:Ayami
※1 チャレンジスクール
主に小・中学校で不登校の経験があったり、高校で中途退学を経験したりして、これまで能力や適性を十分に生かしきれなかった生徒が、自分の目標を見付け、それに向かってチャレンジする高校(東京都教育委員会HPより)
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/admission/high_school/exam/pamphlet2024_japanese.html
※2 一般社団法人おおくままちづくり公社
https://www.okuma-machizukuri.or.jp/
※3 キウイ再生クラブ