【調査結果】「双葉郡における子育てに関する調査」を実施しました
■調査結果■
双葉郡内の子どもの数は増加傾向にあるが、休日の買い物・遊びは地域外へ出向く人も8割
ふくしまこども食堂ネットワークといわき・双葉の子育て応援コミュニティcotohanaは、「双葉郡における子育てに関する調査」を実施しました。
2011年の東日本大震災および原子力事故により避難指示が発令された双葉郡※では、近年住民の帰還や移住が進んでおり、2023年時点の郡内人口は約16,000人となっています。
※双葉郡:広野町・楢葉町・川内村・富岡町・大熊町・双葉町・葛尾村・浪江町
今回の調査は、双葉郡における子育て世帯の実態や課題を把握し、双葉郡の子ども・子育てへの支援や資源が集まるきっかけとなること、子育て当事者、子育て支援団体、行政など、双葉郡の人たちで子ども・子育ての未来を共に考えていくための材料を得ることを目的として実施しました。
住民の帰還や移住の増加に伴い子ども・子育て世帯が徐々に増えている一方、地域内における資源・サービスは限定的であり、子育て世帯は移動や時間的コストを負担しつつ地域外の資源も利用しながら生活を送っている実態がわかりました。東日本大震災から13年が経過した今もなお、原発事故の影響を受けた双葉郡では、子ども・子育て世帯のみならずあらゆる世代が暮らす「まちとしての再興」のスタートを切ったばかりです。地域内に加え、地域外からも手を貸していただきながら継続的に「復興」へ向け歩んでいきたいと考えます。
調査結果
背景:子どもたちの数は年々増加
双葉郡内の居住人口は2023年時点で約16,000人で、避難指示が解除されてから各町村ごとに帰還が始まり、また近年では移住促進政策も進み、徐々に人口が増えています。また、2024年4月現在少なくとも1,323人の子どもたちが暮らしており、その数も右肩上がりとなっています。
調査結果1.地域外の資源に依存せざるを得ない子育て環境
人口の増加に伴い双葉郡内の生活インフラも少しずつ整いつつあるものの、買い物・遊び・学び・病院など子育てに関する資源は地域外に依存せざるを得ず、子どもの体験・学びの機会も不足している状況が改めて明らかになりました。特に休日は、買い物や遊びにおいては8割近く、病院も6割以上が双葉郡外や県外まで出向いているのが実態です。習い事や塾などの学び・体験も、住んでいる地域による質・量的な機会差がみられました。休日に地域外で過ごす時間が長い実態は、子育て世帯が地域コミュニティとつながる機会を逃している可能性も考えられます。
また、郡内における資源の不足に加え、子どもの進学・進路やそれに伴う経済的不安、子育てと仕事の両立など、様々な不安・悩みを持っています。
子どもが小さいうちに帰還・移住した世帯も、徐々に中学校・高校といった「進路」を考える必要に迫られてきます。 双葉郡内での中等・高等教育機関が限られている中、子どもの進学に合わせて“どこに住まうのか”が家族内の大きな議題になり、その決断によっては進学の関係で再度転出してしまうような動きも出かねません。
また、ヒアリング調査では子どもの一時預かりに関する要望や悩みの声も特に多く挙がりました。一度親族それぞれが各地への避難を経験したり、新たに移住してきた世帯等は、親やきょうだい等、子どもを預けたり子育てにおいて頼れる存在がいないケースも少なくないと考えられます。一時預かりの利用は保護者のつかの間の精神的・時間的なゆとりを生むだけではなく、保護者の就労機会増加や学びなどの自己実現にもつながります。
調査結果2.子どもたちにとってより住みよい町となるためには、障害児への理解や様々な支援体制が十分でない現状が明らかに
障害や特別な配慮を必要とする子どもたちの実態や課題は、今回のアンケート調査からは定量的に把握することはできませんでしたが、ヒアリング調査からは貴重な声を聴くことができました。中には、双葉郡内に帰還・移住し少人数で細やかな教育環境に変わったことで、子どもが過ごしやすく健やかな生活を送れているという声もありました。
その一方で、療育機関・施設がなく、専門性のある人材が不足していることや、保護者にとって相談先がなく、双葉郡外の専門機関に頼ったり、当事者同士で助け合いながらなんとか日々を送っている現実も浮き彫りになりました。そして、帰還・移住を積極的に促進している一方、障害児支援に対する行政の理解や姿勢に疑問を呈する声も少なくありませんでした。
特別支援ニーズを持つ子ども・子育て世帯の現状が十分把握されているとはいえず、その暮らしを支える取り組みも公・民ともに現状においては不十分であると言わざるを得ません。この先帰還・移住が進むにつれ、障害児のみならず外国籍の子どもたちや世帯など、様々な背景を持つ家族の帰還・移住も増えていく可能性も考えられます。多様なニーズに対応するため、ハード面等はすぐに対応できないとしても、住みよい地域としていけるような意識が醸成されることを望みます。
調査結果3.双葉郡外の出身者や2020年以降に帰還・移住した層で、子育てや暮らしの満足の相対的な低さと孤立感が浮き彫りに。地域におけるつながりの有無や濃淡による情報・資源へのアクセス差も。
暮らしや子育ての満足度をみると、双葉郡外の出身者や2020年以降に帰還・移住した層で相対的に低いことが分かります。また、この層は「孤立」を感じる度合いもやや高くなっています。
アンケート調査・ヒアリング調査全体を通して、もともと町村内や双葉郡内につながりがあるかどうかや、保護者本人のパーソナリティとして自ら情報を集めたりつながりをつくることができる・好きな人と、そうではない人では孤立の度合いやアクセスできる情報・資源に大きな差が出ることが伺えました。
現状、保護者同士がつながりを持てる機会は限られていますが、ヒアリング調査では自ら積極的に情報を集めたり、イベントやサロンに参加してつながりを作り、孤立を解消していった経緯を語ってくれた方もいました。帰還・移住前やその直後に、つながりをつくることができる継続的な場があるとそのようなギャップを防げるのではないかと考えられます。
調査結果4.地域活動を後押しするコーディネート・中間支援的機能が必要
全体の8割近くが「子育てについて学ぶ機会(子育て関連の講座、講演会、体験教室など)があったら参加したい」と回答、特に孤立感を感じる層で高い参加意向がありました。このことは、「学びの機会」が「つながりの機会」となり、孤立感からの脱却につながり得ることを示唆しています。
また「子ども支援・子育て支援の活動」についても、半数が「ぜひしたい・できればしたい」もしくは「すでにやっている」との回答でした。
子育て支援活動など地域で「何かしたい」という想いを持った人たちが確実にいるという結果を受け、その背中を押しし活動を活発化するためには、地域の中でコーディネートや中間支援的な役割が必要であると考えます。
子育て当事者が活動する際、どうしても「時間・余裕がない」ことが大きな障壁となってしまいますが、現状双葉郡では当事者が活動しないと資源・サービス・支援がない状況にあり、実際郡内のこども食堂も5つ中3つが子育て当事者が始め、運営しています(他地域では子育て当事者のみがこども食堂の運営を担う例は少数)。子育て世帯が感じている課題を他世代と共有し、様々な人の力を借りながら地域で共に子どもたちを支えていく必要があると考えます。「どんな活動があり、どのように参加・始めることができるのか」を伝え、背中を押すことで新たな活動が生まれるためにも、コーディネーター・中間支援的な役割が生まれることを期待します。
【調査結果を受けての提言】
提言1.子ども・子育て世帯が豊かに暮らし、学び育つ地域へ― 専門家・アカデミックな分野からの知見と意見交換を ―
●「子どもの学び・体験機会」の拡大は、子どもたちの育ちにとって火急の課題であると言えます。多様なセクターによる複数の学び・体験機会が創出されていくよう、行政・企業等による財政的な支援が望まれるとともに、関係者間で意見交換の機会をもち、実情に即した枠組みを検討する必要があります。
●スペシャルニーズを有する子どもとその家族への支援については、福祉の専門性を有する団体等による具体的な提言、支援を期待したいと考えます。
●双葉郡の子ども・子育て世帯を取り巻く環境については、変化するニーズや新たに生まれるニーズをとらえるため、 今後も引き続きリサーチを行い地域内外に発信していく必要があります。加えて、それぞれの課題領域において短期・中期・長期それぞれのフェーズに合わせた取り組みについての提言も、大学等機関によるアカデミックな知見を借りながら行っていきたいと考えています。
提言2.子育て当事者を中心として育まれつつある、地域で支えあう自助・互助コミュニティ ― その動きを支え・広げる後方支援が必要 ―
●子育て当事者の地域における「つながり」の有無や濃淡が、アクセスできる情報・資源や孤立の度合いに関係していることから、子ども・子育て世帯のコミュニティ形成が進むことは、子育て当事者間での情報共有や孤立感、子育て対する不安の解消にもつながっていくと考えます。
●つながりをつくり深めていくきっかけとして、こども食堂に代表される地域の居場所なども効果的ですが、現状、子ども・子育て支援にまつわるリソースが限られる双葉郡内では、当事者を中心に「自助」「互助」で支え合うコミュニティが中心です。その拡大のためには、子ども・子育て世帯の居場所づくりやエンパワーメントが重要です。例えば行政による情報提供や財政支援、実積を有する団体によるノウハウ提供、人材の発掘や育成支援など、地域で支え合うコミュニティをつくっていくための方策が必要です。そのような役割を担える中間支援組織や市民活動サポートセンターの設置も期待したいと考えます。
提言3.自助・互助の力が活きる地域モデルを、地域内外の多くの仲間とともに育んでいきたい
●資源・サービスが乏しいながらも、自助・互助の力を高めながら豊かな暮らしを追求しているのが、現在の双葉郡の姿です。この地で暮らす子どもたちの育ちと子育て世帯を支える地域社会を実現していくために、子育て当事者、地域住民、民間団体や企業、行政…それぞれのプレイヤーが一体となり共に考え行動していく必要があります。
●今後もわたしたちは子ども・子育て世帯の声を聴き、あらゆる団体・機関との意見交換・連携を進めていきます。共にこの地域を育んでくださる「仲間」として、支援に参画する方が増えることを期待します。
コトハナ共同代表よりメッセージ
現在の双葉郡において、子ども・子育てに関係する資源・サービスは地域内のみでは不足しており、双葉郡に居住する子育て世帯は移動や時間的コストを負担しつつ地域外の資源も利用して生活している実態がわかりました。このことから、依然として震災・原発事故の影響を受けた双葉郡では、子ども・子育て世帯はもとより、多様なライフスタイルを包摂する地域として再興をしていくためにあゆみを始めたばかりであり、東日本大震災から13年が経過した今もなお、「復興」という文脈において未だ継続的な支援を要していることを改めて訴えていきたいと考えます。
詳しい調査結果についてはこちらからご確認いただけます。
■双葉郡における子育てに関する調査結果報告書はこちら(pdfデータ)
※上記pdfデータについて調査内容以外の箇所に修正箇所がありましたので訂正し差し替えております(5月17日時点)
■本件に関するプレスリリースはこちら(pdfデータ)
【調査概要】
■デスクリサーチ
各種資料やウェブサイト等を利用し、必要なデータを収集した
・調査項目: 双葉郡の人口動態、児童・生徒数、子育て関連機能・施設の実態、基本計画における子ども・子育て政策 等
■アンケート調査
双葉郡で子育てをしている保護者に向けたアンケート調査を実施した
・対象者: 双葉郡在住の、満15歳以下の子どもを持つ保護者の方
・調査方法: マクロミル『Questant』を使用しオンラインで回答できるアンケートを作成。同内容をアンケート用紙にして印刷。メールマガジンや、地域内の公共施設、教育機関、子育てサロン、こども食堂などで配布・回収。
・調査期間: 2023年11月~2024年1月
・質問数: 56問
■ヒアリング調査
双葉郡で子育てをしている保護者にヒアリング調査を実施した
・対象者: 双葉郡在住の、満15歳以下の子どもを持つ保護者の方
・実施人数: 14名
・依頼方法: 調査実施主体である「いわき・双葉の子育て応援コミュニティcotohana」のつながりで依頼。また、別途実施のアンケート調査にてヒアリング協力可と回答した方に依頼。
・実施方法: ご自宅や近隣のコミュニティスペース等でヒアリングを実施。
・調査期間: 2023年11月~2024年2月
※あわせて今後子育て支援や居場所づくりの活動をしている支援者へのヒアリング調査も実施
■調査実施団体
いわき・双葉の子育て応援コミュニティcotohana(コトハナ)
●設立:2019年2月1日
●共同代表:鈴木みなみ 小林奈保子
●WEBサイト:https://cotohana.net/
●事業内容:
福島県双葉郡において、子育て支援を通した地域コミュニティの醸成を目的とし、子育て中の家族、子育て支援に関わる地域の人・関係機関等と連携しながら、そのネットワークを活かして情報発信・事業企画等を展開。
■調査主体
ふくしまこども食堂ネットワーク
●設立:2017年8月11日
●加盟団体:114団体(2024年3月現在)
●WEBサイト:https://peraichi.com/landing_pages/view/gi5qo
●事業内容:
1. 福島県内に新しくこども食堂を立ち上げたい方のサポート(こども食堂立ち上げ講座・運営相談・食材や資金調達支援等)
2. 福島県内でこども食堂を運営する団体のサポート(こども食堂運営者の定例会合・こども食堂研修会・運営相談・食材や資金調達支援等)
3. 福島県内でこども食堂への理解を進める活動(こども食堂フォーラム・食育推進イベント等)
4. その他必要な事業
■本件に関する取材・お問い合わせ先
本調査へのご質問・ご意見や、調査結果を使用される際などは、コトハナのお問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします。