
2023年春に開園した『認定こども園 学び舎ゆめの森(以下、ゆめの森)』。0歳から5歳の子どもたちが“暮らす”この園は、義務教育学校と同居しており、15歳までの子どもたちが年齢を超えて共に学ぶ環境があります。大熊町内で開園して1年を迎えようとするゆめの森で、渡辺マネージャー(副園長)にお話をお聞きしました。
―現在の園児数と、在園児の背景を教えてください。
2023年春に7名でスタートして、現在(2024年1月時点)は15名に増えました。年度途中にも、子どもたちの数は増えています。
大熊にゆかりのある子どもは5名で、そのほかは、保護者のお仕事の都合で町に暮らしているご家族が多いです。
ゆめの森には「グリーン留学」というプログラムがあります。留学を通じて、この1年弱でおよそ20名のお子さんがゆめの森での暮らしを体験しました。
留学プログラムを利用するのは0〜1歳のお子さんが多く、中にはこれからお子さんが生まれるという方の見学もありました。首都圏のご家族を中心に日々問い合わせがあり、教育のアンテナの高いご家族が、選択肢のひとつにここを検討してくれていることに、身が引き締まる思いです。

―今まさに全国から注目が注がれている教育施設ですよね。理念や、保育で大切にしていることを教えてください。
私たちは常に2つのことを握りしめて、子どもたちと向き合っています。
ひとつは「元気なく登園した子は元気にして帰したいし、元気に来た子はもっともっと元気にして帰したい」という思い。
もうひとつは、「“今しかできないことが今できる幸せ”に満ちた環境をつくること」です。幼児期の今しかできないことは、字を書くことでも、数字を覚えることでもないと考えています。校庭に穴を掘って怒られるのではなく、褒められるような。五感をフル活用して遊ぶ経験が、就学以降の学びにバチッと繋がっていったらいいなと。
それには、「好き」という内発的関心を学びの出発点にすることが大事。だからこそ「なぜ?」という問いが生まれ、問うことから没頭する姿へつながっていきます。画一的な遊びや、決められた活動をみんなでしようというスタンスを離れて、子どものやりたいこと、それができる環境を整えています。

―ゆめの森での保育を始めて一年弱が経ちますが、子どもたちの様子はいかがですか。
日頃の子どもたちの姿を見ていると、好奇心に素直になって、五感をフル活用して遊びに没頭し、そのことに満足感を得たり、心地よい疲労感を覚えたりしながら、のびのび生活できているのかなと感じています。
私たちは、子どもたちに「生涯幼稚園児」(熱中する探求者)としての成長を期待しています。なので、みんなが遊びに没頭している姿を見ると、ワクワクドキドキします。声をかけても”お耳が日曜日”になっている姿や、頭から湯気が出るくらい熱中している姿が嬉しいんです。
そういう姿が少しずつ見られるようになってきたところを見ると、デザイナーの考え方、仕掛けが子どもに伝わっているのかなと感じます。
ゆめの森では、幼稚園教諭や保育士は、子どもたちの学びをデザインする「デザイナー」と呼んでいます。
―素敵ですね。そういった理念のもと保育を実践しているデザイナーの皆さんにも関心が出てきました。渡辺マネージャーのご経歴は?
震災当時は熊町幼稚園で幼稚園教諭をしていました。
もともと私は体育大学出身で、体育教員を目指していたので、まさかこの仕事に就くとは思ってもいなかった。
それが大学卒業後、資格を活かして知的障がい児施設で仕事をするうちに、「障がいをもつ子どもたちともっと関わりたい」という思いが芽生えて・・・。一般的な発達段階を学ぶことが彼らの理解に繋がるのでは、という考えから、短大に通って保育士と幼稚園教諭の資格を取得しました。今では、幼児教育にどっぷりハマってしまいました。
熊町幼稚園に勤務をしている時に大震災があり、園は会津若松に避難しました。年々園児数が減って、園はなくなるのかなと思っていた時に、ここで学校づくりが始まると聞き、ゆめの森の立ち上げに参画しました。はじめは半信半疑でしたね。本当に園ができるのか、子どもたちは来るのかなって。
―立ち上げから参画、そして開園して子どもたちを迎えて、デザイナーのみなさんの中にも変化はありましたか。
ゆめの森の学びってどういうことかな、そもそも学校ってなんだろう、幼稚園ってなんだろう、というところから構想を積み重ねてきました。
子どもたちって、自ら育つ力と混ざり合う力を最初から持っているものだと思うんです。それがクラスや学年だったり、保育室という囲われたお部屋が、本来持っている子どもたちの力を妨げているのではないかということに立ち返りました。
仕切りや区切りのない混ざり合う環境をつくりたいよね、という対話から、この建物が出来ています。あとは私たちがやるっきゃないよね、と。これまでのマインドをチェンジしなくてはと気合が入りました。
―0〜15歳がともに学ぶ教育施設は、全国でも例がないと聞きました。
3〜15歳の施設はありますが、0歳〜の施設はここが全国初です。
建物がまずひとつ目のワクワクをくれるので、あとはこれをどう活かすか。この大きな遊具と教材をどう活かすかということ、それを考えるだけでワクワクします。
これまでの保育を振り返って、ものすごく小さな枠組みで考えていたんだなと気づきました。
学校に上げることが一般的な幼児教育の考え方であり目標だったけれども、今は15年後・30年後の未来を見て何ができるかを考えて試行錯誤しています。そういったところから保育の質感が変わっていくのを実感しています。
義務教育学校の先生方の専門性を活かしながら、協働してプログラムをデザインすることもあります。幼児期から顔見知りになっていれば、1年生になった後も関わり合いながら興味を伸ばしていくことができるのかなと。
―ここがひとつの街で、子どもたちが日常の中で出会う人とともに学び合っている、という印象を受けました。子どもたちの育ちを支えていくのに、保護者との関わりも大事だと思っています。保護者の方々とのコミュニケーションはどのようにとっていますか。
学び舎ゆめの森がある大川原地区が“まるっとゆめの森”という感覚です。
ゆめの森では、「学び舎ゆめの森をともにつくる会」を運営しています。今年度からはこども園の保護者の皆さんにも参加いただいています。
私たちは、ゆめの森で過ごす時間を「暮らし」と呼んでいるのですが、子どもたちの暮らしが豊かになるには、子どもとデザイナーだけでなく、保護者や地域の方々を巻き込んでいきたいと考えています。ともにつくる会の仲間が増えてきたことは、大きな一歩です。
―最後の質問です。学び舎ゆめの森をこれからどのように育てていきたいか、今後の展望を教えてください。
ここでの暮らしを豊かにしたい。でも、そのゴールはないと思っています。なぜならば、保護者も子どもも異なる思いを持った方がいるので、その都度、デザイナー・子ども・保護者、みんなで手を取り合って、その時々でいい園暮らしっていうのができればいいなと思っています。
学び舎ゆめの森だからこうでなくてはならない、というのではなく、竹のように揺れ動きながらも目先は空高く、という姿を体現できれば、それが“学び舎ゆめらしさ”かなと思っています。

取材したコトハナスタッフから
理想を突き詰めた施設のしつらえに感激を覚えると同時に、デザイナーと呼ばれる先生方の姿に自分を重ねて「自分だったら、子どもにどんな声をかけるかな」「日常でも、子どもの好奇心を大事にするにはどんな関わり方ができるだろう」と沢山の想像が頭の中で膨らみました。そんな、子どものあるべき姿・関わりのあり方について、新鮮な問いをもたらす空間であると感じています。子どもに関わるあらゆる人に訪れてほしい施設です。
取材日:2024年1月
取材・文:鈴木みなみ(コトハナ編集部)
写真:小林奈保子(コトハナ編集部)