子育て世代の声を聞くことからはじめた一歩
楢葉町の交流拠点「みんなの交流館ならはCANvas(キャンバス)」の一角に並ぶ、こども服や帽子、絵本。「これ、サイズが合いそうだね」「こっちもかわいいよ」——。親子で洋服を手に取りながら話す声が聞こえてきます。
その傍らでは、こどもたちが専用通貨を手に、大人たちとやり取りを交わしています。

こうした光景が広がるのが、まちづくり会社・一般社団法人ならはみらいが主催する「みんなのおさがり交流会」です。
一見すると、おさがりを譲り合う子育て世代の交流イベントのようにも見えますが、この取り組みが生まれた背景には、スタッフたちの切実な気づきがありました。
「ならはみらいの事業全体を見渡したときに、子育て世代の方向を向いている取り組みが、ほとんどなかったんです」
そう話すのは、木村英一さん。まちづくりの活動を進める中で、子育て世代の声を聞く機会や関係性が十分に築けていないと感じていました。まずはスタッフがその世代の方々とつながり、顔見知りになる状態を作らなければならないと考えたことが、この事業の出発点でした。
木村さんは、ならはみらいのスタッフであり、町内で『ならはこどものあそびば』(※1)を運営している日野涼音さんに相談し、プロジェクトを立ち上げます。
「当初は、“おさがり”というワードは出ていなくて。まずは子育て世帯へのヒアリング調査からはじめました。この町でこどもたちがどう過ごしているのかどう子育てをしているのかを知りたいと思ったんです」(日野さん)

おさがり交流会で見えた、地域のつながり
日々の暮らしのこと、子育てのこと。話を聞く中で出てきたアイデアの一つが、「おさがり」でした。こども服や制服などは、サイズが合わなくなるのも早く、捨てるには惜しいものも多い。「中学校の制服をお下がりしたいけど、下の世代とのつながりがないんだよね」と話してくれた方がいました。
それをきっかけに、おさがりを通じた交流という形が見えてきました。
「制服のお譲りはこれからの課題ですが、現在はこども園から小学校低学年くらいのご家庭が多く参加しています。回を重ねるうちに、これまで交流館を利用したことがなかった人が来てくれたり、こども園の保護者会有志の方々が運営を手伝ってくださるようにもなりました。」(日野さん)
交流会には、地域の人たちも関わっています。町内の事業者や、サークル活動に取り組む地域の方々。「ならはみらいが持っている町内の団体や事業者さんとの繋がりを活かして、そこの人たちとこどもたちをつないでいけたら」という木村さんの言葉通り、多世代の接点が生まれています。
「イベントで会った人同士が町内のスーパーなどで出会ったとき、こどもたちが『あ!あの時の人だ』と思ってくれたら。そんな想像をしています」(日野さん)
通貨が生み出す、こどもたちの小さな社会体験
会場を歩いていると、こどもたちの弾んだ声が聞こえてきます。
「“みらい”が貯まった!」「“みらい”を増やしたい!」
こどもたちが大切に持っているのは、「みらい」と呼ばれる専用通貨です。こどもたちはその通貨を使って服を手に入れたり、ワークショップやゲーム企画に参加することができます。

通貨をコツコツと貯める子もいれば、ゲームで一気に使ってしまう子も。こども同士で通貨を融通し合う様子も見られたといいます。
「通貨を使う体験を通して、こどもたちが社会への入り口を経験しているなと感じます」と木村さん。
この通貨、実は素材や作りにもこだわりが詰まっています。
「スタッフの手作りで、100枚重ねても寸分の狂いもなくピッタリ合うように、外径もこだわっています。カバンから通貨を出して『こんなに持ってるよ』と見せてくれた子がいました。財布の中にきれいにしまって、大切に持ち歩いてくれている。はじめは『コピー用紙でいいじゃん』と思っていたけど、丁寧に作られているからこそ、その価値が伝わっているのかなと思います」(木村さん)

日野さんも、そんな裏側の試行錯誤に心が動いたといいます。「ならはみらいのスタッフには面白い人が多いなと思っていたのですが、それぞれの得意なことが活きている。スタッフも楽しみながら本気になっている姿も、発信していきたいと思っています」
葛藤の先にある、子育て世代との理想の関係
もちろん、すべてが順風満帆なわけではありません。
「イベント中は運営に追われて、本来の目的である『保護者やこどもたちとじっくり話す』余裕がまだ作れていないんです」と、二人は“絶賛悩み中”だと明かしてくれました。
しかし、その「悩み」こそが誠実さの裏返しでもあります。
「ならはみらいが、子育て世代のほうを向き始めた。その姿勢は少しずつ伝わっているはず。イベントの時だけでなく、普段の交流館での『こんにちは』という挨拶や、何気ない立ち話から、困りごとやアイデアを交わせる関係になっていければ」
スタッフが目指すのは、おさがり交流会を「入口」として、その先にある、より有機的な関係を育んでいくこと。
「自分たちが介在し、子育て世代やこどもたちのやりたいことが現実になる。そんな構図になるといいなと考えています」(木村さん)

地域の一員として、こどもたちを見つめる
活動を続ける中で、もう一つのテーマが見えてきました。
「子育て世代が集う環境を整えられた。次は、こどもたちにどういう体験を届けられるといいか、と考えるようになりました」と木村さん。
日野さんも、こどもたちの関わり方についてこう話します。 「こどもたちが“見守られる存在”から、“地域の一人”としてさまざまなことに参画できたらいいなと思っています」
通貨で買い物をすること。 地域の大人と会話をすること。そうした経験を通して、こどもたちも町の一員として地域に関わっていく——。
「こどもたちから『こんなことをやりたい』という声が出てきたらうれしいですね」
木村さんは、こう続けます。「あれこれ構想を進めるなかで葛藤もありますが、その時に交流会でのこどもたちの姿が浮かぶよね。通貨を使って妹に服を選ぶ小学生の姿とか、その表情とか。だからこそ、こどもたちにどんな機会をつくっていけるか、みんなで考えていきたい」

おさがりをきっかけに始まった、小さな交流の場。
それは洋服を循環させる場所であると同時に、町の“未来(みらい)”を大人とこどもが一緒になって耕していく場所でもありました。
熱い想いとあたたかいまなざしの中で、親子と地域、そしてこどもとまちの新しい関係が、ここからゆっくりと、着実に育ち始めています。

みんなのおさがり交流会の情報は、みんなの交流館ならはCANvasのInstagramにてご覧ください。
■Instagramはこちらから
※1『ならはこどものあそびば』
楢葉町にある、こどもたちがありのままで過ごせるフリースペース。認定NPO法人底上げが運営し、2022年に開所しました。
放課後の時間を中心に開かれ、未就学児から小学生までのこどもたちが集っています。
自由な遊びや表現を通して主体性を育む場であり、こども同士が関わり合い、試行錯誤しながら過ごすことを大切にしています。
■Instagramは こちら から
文 コトハナ編集部
写真 一般社団法人ならはみらい・コトハナ編集部
