七五三詣りの光景を双葉郡でもう一度。「ふたばで七五三お祝いプラン」
子どもが節目の年齢まで無事に育つことができたことを祝い、さらなる成長を願う日本の伝統行事「七五三」。コトハナでは2020年より、衣装レンタルや着付け、ヘアメイク、当日のカメラマンをまるっとコーディネートする「ふたばで七五三お祝いプラン(以下、七五三プラン)」を実施してきました。
2024年11月14日には、浪江町に暮らすYさんご家族の七五三詣りをご一緒させていただきました。この記事ではその様子を交えながら、七五三プランに込める想いをお伝えします。
双葉郡の神社で七五三詣りをする光景を取り戻したい
七五三詣りは、子どもの無事な成長の感謝を伝えるため、氏神様のいる神社へお参りするのがしきたりとされています。しかし、東日本大震災以降、双葉郡ではその光景が途絶えてしまいました。
そんな中、2020年に富岡町の諏訪神社で震災後初となる七五三のご祈祷が再開。「双葉郡にゆかりのあるご家族に、ぜひここで七五三詣りをしてほしい」とコトハナで企画したのが七五三プランでした。
(初めて七五三プランをした際のレポートはこちら)
七五三詣りには、お着物の手配や着付けの準備が必要です。また、特別な思い出を残すには、カメラマンの存在も欠かせません。しかし当時は、ご祈祷を受けられる場だけでなく、記念撮影ができるフォトスタジオもありませんでした。そのため、多くのご家族がいわき市や南相馬市、郡山市などへ出向き、お祝いをしていたのです。
双葉郡での七五三詣りを素晴らしい時間にしたいと考えたコトハナ共同代表の鈴木は、日頃からお世話になっているカメラマンや着付け師に声をかけ、チームを組むことに。こうして、双葉郡内で七五三をコーディネートする取り組みを始めたコトハナは、これまでのべ20組のご家族と七五三詣りの時間をともにしてきました。
「コトハナさんと一緒なら、七五三も楽しめるかも」
2024年度も、3組のご家族がプランを利用し七五三詣りを行いました。浪江町で暮らすYさんご家族もその一組。3歳の女の子と、5歳の男の子のきょうだい合同での七五三です。
ママ「コトハナ共同代表の奈保子さんとはコトハナのサロンで出会い、普段からお世話になっています。日頃から元気いっぱい、マイペースでのびのびしているわが子達なので、お着物を着てお参りしたり、家族写真を残したりするのは難しいかもと、七五三のお祝いをすることを実は諦めかけていたんです。
でも、気心知れた奈保子さんがいるコトハナさんが一緒なら心強い、やりたい!とお願いすることにしました」
Yさんのようにコトハナの活動に以前から参加してくださっていた方だけでなく、ご自宅でのお仕度をご希望されていたり、馴染みのある地元で七五三詣りをしたいとご依頼いただいたり、七五三プランを申し込むきっかけはご家族によってさまざまです。
それでも「双葉郡で子育てすることも、子どもたちの成長も、ともに楽しんでいきたい」活動するコトハナの想いに共感しているというのは、みなさん共通のように感じられます。
着付けは過ごし慣れたご自宅で
迎えた当日は見事な秋晴れ。淡く明るい青空のもと爽やかな風が吹き、とても気持ちの良い日でした。チームは集合し、着付けを行うためYさんのご自宅へ向かいます。
この日はコトハナ共同代表の鈴木・小林、カメラマンの吉田和誠(あきとも)さん、着付け師の小野久美子さんと矢野千帆さんでご自宅へ。着付け師は一名の場合もありますが、今回はお子さんが二人ということもあり二名体制をとりました。
ご自宅に向かう途中、本日の主役がお出迎え。いつも遊んでいる場所で、まだまだリラックスしている様子。

「こんにちは、お待ちしておりました~!」そう言って明るくにこやかに出迎えてくれたママさん。パパさんのご両親も駆けつけており、今日は賑やかな一日になりそうです。

子どもたちの気分に寄り添いながら進める着付け時間
Yさんご家族は家族4人とも着物を着ることをリクエスト。ママから順番に着替えていきます。
装いが変わり雰囲気も変わっていくママのことを、まじまじと見つめる子どもたち。特に娘ちゃんは、晴れ着が特別であることを感じているのか、憧れのまなざしを交えながら自分の順番を心待ちにしているようです。


子どもたちと触れ合いながらも、着付け師さんの手によって15分ほどでママは衣装替えが完了!ママのやわらかい表情のままに、着物を纏った姿がとても素敵でみんなでうっとり。

次はパパの着付けです。ちなみに最初は着る予定はなかったそうですが、家族みんなで着物を着て七五三をされたご家族の写真を見て、お着物を着たいと気持ちが変化したのだとか。

途中、おなかが空いたのか「アンパンマンポテトが食べたい!」と息子君。いつも食べているものにすぐ手が届く安心感は、自宅でお仕度するからこそ。子どもの「今、こうしたい!」に応えられる環境は、親にとっても心強いものです。

大人の着付けはあっという間に終わり、いよいよ子どもたちの番へ。まずは気持ちの準備も万端な娘ちゃんから着替えていきます。

着物のコーディネートは、着付け師さんにお任せというパターンが多いそうです。
小野さん「コーデをお任せいただいた場合は、ご本人の好きな色や希望もお聞きしたうえで、纏ってくれる方達のお写真を見てその方に似合う色、TPOに合わせたお着物を選んでいます」
今回、娘ちゃんは黄色が大好きということで、淡い黄色のお着物がでてきました。

着付けを行うとき、小野さんは子どもが理解でき、自然と動けるような言葉を選んで動作を伝えていました。前を見てほしい時は「おばちゃんの顔見ててね~」、着物の丈を上げる時には「歩きやすいようにするね!」といった具合です。もちろん、「かわいい、素敵!」と本人の気持ちが上がる声かけにも、いっそう熱が入ります。
「着物を纏ってくれる方が笑顔になれたらと思い、沢山お話をしながら着付けをしているんです。負担もかからないように短時間で、楽で、絶対に着崩れしないようにといつも努めます」と教えてくれました。
お仕度の風景も、その年齢ならではの表情や仕草が表れる大切な一コマ。カメラマンも一緒に空気をつくりながら、その様子をしっかりと収めます。

普段は、座らせるだけでも大変とお母さん。けれどこの日、娘ちゃんは着物を自分が着ていく様子をじーっと見ていました。10分もかからず、お着替えは完了。髪飾りもつけてもらって、大満足の様子です。

気持ちがのるまで待つ時間も大切に
最後に着替えるのは息子くんです。歌ったり踊ったりすることが大好きで、服を着るのは少し苦手。お母さんは着てくれるかな、どうかなと様子を伺っていました。
着替え始めるまでは少し時間が必要そうです。でも1日1組のプランだから、急ぐ必要はないので心配無用。息子くんはお気に入りのyoutubeを見たり、外にお散歩にいったり。彼の気持ちが向くまで、ゆったりと待っていられます。
いつもより大人が多い環境になることもあり、コトハナチームはいったんお家の外へ。普段の様子から着てもらう方法を考えてみたり、気分転換になるようなおやつを買いに走ったり、自分たちにできる作戦を考えます。家の中からは、ご家族でワイワイする声が聞こえてきます。「終わったらマック行こう!」という、ご褒美の提案も。

着物を脱いだり着たりを繰り返しながら、やっぱり着るのはいやだと息子くん。神社に行ったら気持ちが変化するかもしれない。ご祈祷の時間が迫っていたこともあり、このまま出発しよう!といったん神社へ向かうことにしました。
ご祈祷もご家族とワンチームで

Yさんご家族を先頭に、みんなでわらわら歩いていきます。下駄や羽織などは着付け師さんが持ったり、ビデオ撮影を肩代わりしたり。チーム一体となって、七五三詣りをつくる空気が漂います。


七五三詣りを行うのは、いつもの散歩コースにもなっているご近所の神社。お父さんが七五三を行った場所でもあります。家族の歴史がこのまちで続いていることを感じられるのは、地元での七五三詣りならではですね。

到着して間もなく、ご祈祷を受ける時間に。神主さんに迎えられ、一同で社殿へ向かいます。


七五三詣りを喜ぶようにご祈祷に挑んだ娘ちゃん。一方、社殿の厳かな雰囲気に不安を感じたのか、息子くんの気持ちはちょっぴり後ろ向き。お父さんにだっこされ着席するも、外に出て落ち着きたい様子がありました。
ご祈祷はできたらいいけれど、七五三の思い出が明るいものであってほしい。そんな想いで、外にいたいならそれでいいよと、鈴木が寄り添います。

たっぷり楽しく記念撮影!

ご祈祷を終え、お兄ちゃんの分まで千歳飴を手に持った娘ちゃんとご家族がでてきました。さぁ、最後は記念撮影です。特別な日の思い出を残すべく、とりわけたくさんの写真を撮ります。
写真をたくさん撮るとは言っても、いくつもポーズを変えるなど、カメラマンが細かく指示を出すことはありません。ただ目の前で起こることに目を向け、ご家族と一緒に、気持ちが動いたいくつもの瞬間を写真で残していきます。

とっておきの1枚は逃さぬよう、記念写真は念のためその場で確認も。ご家族は楽しげな雰囲気で写真を見ていました。


今回は行いませんでしたが、町中でロケーションフォトを撮ることも可能です。駅のホームや並木道、自宅のお庭など思い出の場所で写真を撮るお客様もいました。

1日を振り返る時間で思い出を刻んで
家に戻ると、子どもたちは早速着物を脱ぎ、いつもの姿で元気に外へ。今日1日で打ち解けたメンバーとのびのび遊びだします。

一方、家の中では今回プランを申し込んだママとコトハナチームで今日1日を振り返るようにおしゃべりを。「ほんっとうに楽しかったです!」着物の着付けにご祈祷、記念写真……たくさんのことに気を回していたであろうママの第一声が、はずんでいます。
特別な一日も、家族で楽しみたい。そんな願いがかなったように思え、同行した筆者も嬉しく思いました。

写真のお渡しにご自宅を再訪
当日の写真は後日、カメラマンの吉田さんがご自宅へお届けに。一緒に写真を見ながら、当日のことを振り返ります。

お仕度するところから日常に戻るまでの3時間、記念写真もしっかり残すと納品写真は数百枚のボリュームに。それだけ撮るからこそ、表情の移ろいや時間の流れが捉えられ、一枚一枚見ていくと「その時」が思い出されます。
カメラマン吉田さん「今この瞬間を写し切りたい。その想いで一枚いちまいシャッターを押しています。お仕度から時間をともにしながら、刻々と変わっていく空気も感じられるんです。ご家族に会えた嬉しさもあり、一緒に過ごせば過ごすほど気持ちも熱くなりますね」
写真の納品数が多いのには、もう一つ理由があります。たくさんの写真の中からお気に入りを見つけたり、少しの表情や仕草の変化を感じてもらったり、写真を見る時にコミュニケーションがうまれたらいいなという想いが吉田さんにはあるのです。
その日起きていること全部に目を向けるのは、なかなか難しいもの(お子さんが二人以上になればなおさら!)。写真を見ながら思い出を振り返ることは、その日をもう一度味わうような時間にもなるはずです。
また、今回の七五三ではご自宅に戻ってからの様子も撮影していました。その写真を見たママは「いつもと同じ場所なのに違うみたい」と一言。良いカメラで切り取る美しさ以上に、第三者に撮ってもらうからこそ気づける、日常にある尊さがあることを感じます。
特別な日もリラックスして迎えられる安心感と心強さ
コトハナの七五三プランを利用した感想を、改めてママさんに聞いてみました。
「楽しみな気持ち半分、子ども達は着物を着れるかな、楽しめるかな…と言う心配の気持ち半分で迎えた当日。チームコトハナの優しさに包み込まれて、最初から最後までずっと七五三を心から楽しむことができました。特に、家族みんなで着物を着れるとは思ってもおらず、本当に嬉しい経験でした。神社で子ども達の行動に内心ヒヤヒヤした時も、チームコトハナのみなさんが優しく子ども達に寄り添い導いてくださったので、安心してご祈祷をいただく事ができ、祖父母も感心、感謝をしておりました。
写真をいただいてからは、見てすぐ『素敵!』と喜び、家族みんなの自然な幸せの顔を見て、また幸せを感じました。記念写真だけでなく、子ども達の自由な行動や親が着付けをしてる時の子ども達の姿など、思い出をつぶさに残して頂き見ることができて嬉しかったです。家族で写真を見ながら当日を振り返っていると話が弾みます。子どもたちも『着物が楽しかった』『神社行ったね』と話してくれ、娘は『また着物着たいね』と言ってくれるんですよ」
七五三は節目といえども、日常と地続きにあるもの。特別なハレの日だからといって、家族のキャラクターががらりと変わるものでもないでしょう。自由気ままな3歳男児を育てる筆者ですが、いつもの姿を知っているチームと七五三を迎えられたらとても心強いだろうとしみじみ感じます。

七五三プランが始まった当初から活動を共にする、着付け師の小野さん、カメラマンの吉田さんも、このプランの魅力は「みんながリラックスして、笑顔でいること」だと話します。
小野さん「七五三プランに関わる全てのスタッフがとても優しく、温かい空気が流れています。その場所にいると本当に心がホッコリします。ご家族みなさまの笑顔が素晴らしいです」
吉田さん「リラックスして撮影ができることが、このプランの魅力だと感じます。私自身、自宅やその周辺でのロケーション撮影をお勧めしているのは、いつもの生活を送る環境の中で撮影することで、より自然な表情が溢れてくると思っているからです。そしてそれを実現させようと努力するコトハナのスタッフさん、着付師さんや美容師さんとのチームで臨むコトナハの七五三プランは、スタジオの中で撮影するフォトプランとはひと味違う、特別な存在だと思います」
双葉郡で一緒に子育てをする仲間として頼れる存在に
双葉郡で七五三詣り自体を行いやすくなってからは、コトハナの七五三プランはこの地域で一緒に子育てしてきた仲間と一緒にできることが、依頼の理由に変化しているように感じます。
日頃からサロン活動などを通してできた関係性があるから事前に心配事を相談しやすい。当日何かあっても、きっと全力でサポートしてくれる。そう感じているからこそ、七五三という大切な節目をコトハナに任せるご家族がいるのだろうなと思いました。
今回の記事がコトハナを知るきっかけになったという方もいらっしゃるかもしれません。七五三のような特別な日に限らず、双葉郡で子育てをするみなさんと、子どもたちの成長を喜び、楽しんでいきたいという想いをコトハナは大切にしています。お住まいでのサロン活動やイベントなど、気が向いたタイミングがあればぜひ遊びにいってみてください。そこにはきっと、ハレの日もケの日も頼れる仲間との出会いがあるはずです。

取材・文 蒔田志保/写真 中島悠二